とある昼下がりの井の頭公園にて


ベンチに座り、タバコをふかしていると遠くのほうでこちらをじっと見つめる視線に気がついた。


その男はつかつかと近寄ってきて隣に座ると「朝がいいね、公園は」と言ってそのまま帰ってしまった。


それからその男との奇妙な朝の関係が始まった。


恋人でもないのに同じ時間に朝、なんでもないことを話す。


池にすっぽんがいるとか公園の警備員の悪口とか、彼の飼っている犬の話とか。


朝の公園では犬の散歩をしている人がやたら多い、彼はいろんな種類の犬の名前を知っていた。


彼の飼っている犬も散歩に出したいが老衰で足が悪く連れて来れないとのこと。


何なら三輪のかご付き自転車を買ってここまで連れてこようか,などなど。


取り止めのないフツーの世間話をした。


ただ少し普通と違う事といえばそのあいだに500mlのビール2本を空けていることだった。


しばらくしてその男は静養のため入院した。その間に犬は死んでしまった。


ある夜ほろ酔いで街を歩いていると彼を見つけたときがあった。


寒空の下客引きの女の子の奥で丸くなって倒れていた。


それはまるでゴミ同然だった。

 

敬具  高田 渡様へ

 

夕暮れの街中で僕は見る


自分の場所からはみ出してしまった


多くの人々を