台風一過の夜

 


 台風一過の夜だった、
打ちつける雨音に耳をふさがれたまま私は歩いていた。
街灯の灯りが雨音を照らすたび、夏の終わりを示すかのような花火の光を思い出す。
傘を跳ねる雨音にまじり誰かの駆抜けていく足音などが、いくつも私を通り過ぎていく。
 あれはゆめか、まぼろしなのか、、それともーー
「カラン、カラン、、」、ふと横ぎる音に耳を奪われて振り返る。
時折強弱をつけて降る雨は、まるで生き物のように私をつつみこんでいた。
 ちょうど近所の郵便局をまがったところに小さな公園がある、日曜ともなると子供を抱えた母親達が必死に取り合いをするブランコと、サルモネラ箘騒動で誰も入らなくなった小さな砂場だけがある小さな公園、たまに私も夜中に一人で散歩がてらその公園で佇んでいたりもするのだが、夜には街灯一つポッツリとついたままの、ひとけは全く無いと言ってもいいくらいの小さな公園がある。その横には都市公団の団地がこれみよがしに立ち並び、長い壁づたいに歩いていくとまた急に激しく雨は降り出した。
「カラ、カラカラ、、」(またか)ほとんど耳鳴りに近い音でその音は近付いて来た。
 チラと横を見ると街灯の灯りに照らされて人陰が長い壁にうつっていた。
雨は激しく足下はほとんど濡れてしまい、思うように急ぐ事も出来ず振り返ってみると、顔は傘で見えないがややこぶとりの背の低い女の子が後ろを歩いていた。歩く音は時折重なり歩調はほぼ一定のまま私と、その女の子は歩いていた。
 何度か曲がり角をつたって私の家はあるのだが、その足音と女の子はずっと私の後ろを歩いてくる。
「近所の人かな」、とそう思った時、ちょうど彼女の傘の先が背中にぶつかった。
「あ、すいま、、」
うしろを振り向こうにもずぶ濡れで足がゆうことをきかず、立ち止まり道をあけようにも彼女の傘は背中に刺さったままどんどん歩いてくる、冷たい雨が背中を刺していた。
 私はびっくりして飛び退こうとしたが、ずぶ濡れの足はゆうことをきかずそのまま足早に先を歩く、しかしまだその傘は物凄い力で背中をグイグイと押して進んでくる。
 私もどんどん足早になり、ついには走り出す、が背中の傘はにも増して足早に容赦なく私を押していく。
ついに私は雨の中、傘もささずに走り回っていたのでした。
 雨は時折激しく 優しくふっておりました。